大井川通信

大井川あたりの事ども

漱石のナショナリズム

漱石の言葉は、問題の核心にまっすぐに届く。

「国家的道徳というものは個人的道徳と比べると、ずっと段の低いもののように見えることです。元来国と国とは辞令はいくらやかましくっても、徳義心はそんなにありゃしません。詐欺をやる、誤魔化しをやる、ペテンに掛ける、滅茶苦茶なものであります。だから国家を標準とする以上、国家を一団と見る以上、よほど低級な道徳に甘んじて平気でいなければならないのに、個人主義の基礎から考えると、それが大変高くなって来るのですから考えなければなりません。だから国家が平穏の時には、やはり徳義心の高い個人主義にやはり重きを置く方が、私にはどうしても当然のように思われます」(『私の個人主義』  夏目漱石  1914)

現在、国際情勢が悪化すると同時に、日本の国力も衰えて、再び国家が不穏な時代にさしかかっているのは間違いない。メディアやネット上では、「国家を一団と見る」視点から、威勢のいい言葉が飛び交っている。それは漱石の観点からも、ある程度やむを得ないことかもしれない。

ただ、そういう視点が(お花畑的ではなく)リアルで上等であるかのような態度は承服できない。せめて「低級な道徳に甘んじて平気でいる」ことの自覚を、漱石とともに求めたい。