秋の天皇賞で、世界最強と言われるイクイノックスの快勝とルメール騎手の笑顔のインタビューを見る。僕が競馬のレースを見始めてから、ちょうど二年がたったわけだ。ルメールのファンだから気分よく、日の傾いた大井川流域を歩く。
このところアスファルトの上に落ちて死んでいるスズメバチを見ることが多い。最強昆虫もこうなると哀れだ。足で触るとまだ動いていた。カマキリと同じで、死に際に少しでも温かい場所を求めているのだろうか。
モズのハヤニエを探しに、広い田んぼの中を、釣川にむけて歩く。以前ハヤニエを見つけた池の周囲の有刺鉄線には、それらしいものが見当たらない。このところあまり歩いていないので確かなことは言えないが、なんとなくモズの気配がないような気がする。例年より個体が少ないのか、それともまだ時期が早いのか。
せっかく人気のない広大な田んぼの真ん中に出たので、大声で高村光太郎の「秋の祈」を暗唱する。せっかくなので身振り手振りも交えて。小道具の杖も利用して「ひざまずく」のくだりでは腰を落とし、杖にすがるように空を見上げ「ただ我は空を仰いでいのる」と絶叫する。
なんどか試みているうちに、思い付きのジャスチャーもだんだん固まってきて、いい感じで様になってくる(と思う)
これならと、萩原朔太郎の「虎」にとりかかる。数年ぶりなのでスマホで詩句を何度か確認したが、学生の頃から暗唱しているのですぐに思い出す。人間に捕らわれた虎を主人公にした一幕物の芝居みたいな構成だから、こちらのほうがジャスチャーもつけやすい。悲憤慷慨する虎になりきって、一人芝居をする。
幸い、人影ははるかかなただ。こんなものを見せられたらたまらないだろう。僕自身感情過多な詩の朗読を聞くのが、生理的に苦手なのだ。しかし朗読し演じる立場になってみると、詩の言葉を身体で受け止めて深く了解するためには、全身をつかった朗読が役に立つことを実感した。