大井川通信

大井川あたりの事ども

詩人丸山薫のこと

今日は丸山薫の忌日だ。高校生の頃から好きな詩人だが、忌日を意識したことはなかった。秋たけなわで何かと忙しい時期だからかもしれないし、ことさら忌日を意識するような尖った存在感をもった文学者ではないということかもしれない。

このブログでも、何かに関連して詩人の名前や作品をあげたことはあるが、正面から扱ったことはなかった。

丸山薫(1899-1974)を初めて知ったのは、学燈文庫の『現代詩の基礎学習』(1961)の中の5編の詩によってだと思う。懇切な解説付きの学習文庫シリーズで、僕が近現代詩を好きになったのはこの本との出会いが大きい。丸山の詩は「未来へ」をはじめとしてどれもよかった。

親子が対話する寓話のようなこの詩は、学校の教科書にも採録されたようで、某少年犯罪で有名な少年Aが卒業文集の中でこの詩を引用したという記事を読んだ記憶があるが、今ネットで探しても見当たらない。記憶違いなのだろうか。

あとで丸山薫の詩集を開いてみても、どれもがアンソロジーの5編ほど面白いわけではないことに落胆したことを覚えているが、それはこの詩人が特別なのではなく詩の宿命みたいなものだろう。

詩は、地球に帰還する宇宙船の大気圏突入に似たところがあって、特別に計算された角度でないと宇宙に弾き飛ばされたり、大気中で燃え尽きたりしてしまう。誰かが心から良いと思える詩は、その特別の角度を守って地表にたどり着いた稀な言葉たちなのだ。

丸山の詩の魅力は、寓話として切り取られた小世界のセンスの良さであって、詩句やイメージが飛びぬけて鋭かったり突き抜けていたりするわけではない。茫洋としてとらえどころのないイメージの詩も多い。

僕が大学に進学して古本屋巡りを覚えたときにはじめて購入した大物が『丸山薫全集』5巻セットで、以来、僕の蔵書の古参として書棚の一角を占め続けている。

 

父が語つた/御覧 この絵の中を/橇が疾く走つてゐるのを/狼の群が追ひかけてゐるのを/馭者は必死でトナカイに鞭を当て/旅人はふり向いて荷物のかげから/休みなく銃で狙つてゐるのを/いま銃口から紅く火が閃いたのを

息子が語つた/一匹が仕止められて倒れたね/ああ また一匹躍りかゝつたが/それも血に染まつてもんどり打つた/夜だね 涯ない曠野が雪に埋れてゐる/だが旅人は追ひつかれないだろうか?/橇はどこまで走つてゆくのだらう?

父が語つた/かうして夜の明けるまで/昨日の悔ひの一つ一つを撃ち殺して/時間のやうに明日へ走るのさ/やがて太陽が昇る路の行く手に/未来の街はかがやいて現れる/御覧/丘の空がもう白みかかつてゐる

 (丸山薫「未来へ」)

 

 

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