大井川通信

大井川あたりの事ども

柳川異聞

午後の空き時間を利用して柳川に行く。自宅から柳川まで自動車で行くとなると、かなりおっくうな長旅だ。しかし、職場のある福岡市から西鉄電車の特急に乗ると、驚くほど短時間で柳川に着く。特急は車両を揺らしてしゃかりきに飛ばすが、乗客はぼんやり揺さぶられているだけだ。

タイムスリップ、あるいはワープしたみたいな感覚で、西鉄柳川駅に吐き出される。みなれないごく当たり前の地方都市の駅前ロータリー。車なら、観光スポットに直行できるが、駅を中心に歩くというのも新鮮だ。柳川についての体内地図はまるで役に立たない。

大通りから一本引っ込んだ道沿いの老舗の元祖本吉屋に入る。創業天和元年(1681年)の、うなぎせいろむしの老舗だ。さほど大きな構えではないが、店内の雰囲気は長崎の名店吉宗に似て、歴史が感じられる。

大通りに出て駅の方に戻ると、川下りの水路と乗り場があるが、もう営業は終わっていた。隣に神社の鳥居があるのでのぞく、参道は広くて長く、両側の桜もまだ散っていない。三柱神社の境内は、高畑公園と一体になっていて、この地域の桜の名所だそうだ。外国人観光客の姿がちらほら目立つ。しばらく散策したあと、駅近くのカフェに寄って街の余韻を楽しんだ。

掘割も立花邸「御花」も白秋生家も訪ねることのない、僕にとってまったく新しい柳川だった。近頃覚えた美味しいパン屋さん「どんぐりの樹」を家族のおみやげに買いたいところだったが、そこまで足は伸ばせなかった。

まだ明るい筑紫平野を、しゃかりきに走る西鉄特急に揺られて帰る。