大井川通信

大井川あたりの事ども

サークルあれこれ(番外編:哲学講読会)

かつてあった哲学の勉強会の話。

今から10年以上前、数年間(2014~2016)にわたってとびとびで地元の哲学カフェに通った。今人気の哲学風議論のカフェではなくて、哲学書の翻訳文を月二回地道に読んでいく会だった。主催は、在野の哲学者にして市民運動家の清水先生。ドイツ留学の経験がありフィヒテの研究で博士号をもっている本格的な哲学者だ。

最初はカントの平和論を読んで、次はヘーゲル法哲学を読んだ。正式な哲学教育を受けたことのない僕には勉強になる会だった。本文を順番に朗読したあと質疑の中で清水先生が「正解」を説明するという厳格なスタイルだった。ただし、市民運動家としての顔をもつ主宰者は机上の学問を嫌うのか、「政治思想カフェ」を名乗っていて、哲学を読むことは人が集まるためのきっかけと考えているようだった。

メンバーは20代から70代まで。読書会がメインのメンバーはそうでもなかったが、清水先生の知り合いは、各方面の市民活動家が多く、権力批判的なスタンスを自明なものと振り回す雰囲気が濃厚で、それもあって自然に離れていってしまったと思う。

今でも時々街で清水先生と顔を合わせて挨拶することがあるが、勉強会のあったカフェを拠点に子ども食堂をやったり、市民向けの寺子屋を開いたり、実践家としての活動を継続している。尊敬すべき先輩であることには変わりはない。

それより少し前、2011年に、現代美術家の外田さんとその友人のキュレーターの岩本さんと三人で哲学書を読む読書会をしたことがある。安部さんを通じて面識があった外田さんから『菜園だより』の出版記念会で声をかけられたのがきっかけだったと思う。その頃北九州芸術劇場に勤めていた岩本さんには同じころ、多田さん演出のワークショップでお世話になっていた。

テキストは、ドゥルーズ=ガタリの『ミルプラトー』とフーコーの『監獄の誕生』。海外の大学で哲学を学んだ岩本さん主導のレベルの高い会だった。ちょうど安部さんとの9月の会が中だるみしていたころで、一年ばかり熱心に続けたが、仕事も忙しくなった僕が息切れして自然消滅してしまったと思う。

安部さんの遺稿集作成で久しぶりに再会した外田さんから、東京在住の岩本さんを交えてネットを使って会を再開しないかという提案を受けている。二人とも多忙な人たちだだからどんな形で再開できるかは未定だが、ありがたい話だ。