大井川通信

大井川あたりの事ども

おっさんビジネス用語など

世間の流行には疎いほうだし、それを追うような記事もほとんど書いていないと思う。ただ、今ネットでいくらか話題になっている「おっさんビジネス用語」というくくりは面白いと思った。

最優先課題について「一丁目一番地」といい、数字をごまかすことを「鉛筆なめなめ」といい、一致団結してやることを「全員野球」ということなどが代表例とされる。

おっさんと言っても今のおっさんが使い始めたのではなく、おっさんの世界で伝承されてきた言葉の用法だ。だから、これらの用語の解説では、昭和の香りがすると言われたりする。

僕は公務員の仕事が長かったので、ばくせんと官公庁用語と思っていた言葉が、一般のビジネスの世界でも通用していることに気づかされた。「仁義を切る」(事前に断りを入れる)だとか「おとしどころ」(関係者の妥協点)とかは日常語といっていい。もちろん、おっさんビジネス用語リストには上がらない、官公庁独自の用語も多くある。

これらの用語は、日本の勤め人の世界での「実践知」が込められたものなのだと思う。初めはこの言葉に面くらい、やがてその意味を悟って、徐々に自分で使いこなせるようになるときに仕事人として一人前になる。察しのわるい僕は、こうした職場の暗黙知を理解するのが不得手で、自分なりに「用語集」を作ってみたことがあった。

ところで、今になって、おっさんビジネス用語として取り出され、揶揄されるようになったのはなぜなのか。若い世代のこれらの言葉との格闘は、昭和の昔からずっと続いてきたはずである。

おそらく、これらの用語が埋め込まれてきたビジネスの風土が変質し、言葉の神通力が消えつつあるのではないか。そのために、違和感のある変な言葉としてネットの世界でさらしものになってしまったのだろう。

「鉛筆なめなめ」などコンプライアンス優先の意識に反するものだし、「仁義を切る」も「落としどころ」も、熟議とスピーディーな意思決定になじまない。かつてのビジネスの秘儀も今や形無しである。