大井川通信

大井川あたりの事ども

村の賢人の新展開

先日、久しぶりに「村の賢人」原田さんのアトリエ兼作業場(旧馬小屋?)を訪ねたら、そこいらじゅうに見慣れない動物の墨絵が飾ってある。キリン、クジャク、サイ、サル、ワニと、バラエティに富んでいるだけではなく、今までの賢人の絵のタッチとまるでちがうリアリズムだ。

ここ数か月は、この絵に取り組んできたらしい。素人の稚拙さがなくて、思わず魅入ってしまうほど上手い。さっそく、10種類の絵葉書カードに印刷したようで、印刷所から届きたてのものを1セット購入した。

かつては、詩の書だったのが、絵を添えるようになり、文字と絵が混然一体となった作風に到達したかと思ったら、この動物墨絵の新展開である。とても70歳を越した人間とは思えない振る舞いだ。

それで隣町の駅前の小さなアトリエで個展をやるというので、夫婦でのぞいてみた。民家を改造したアトリエ二階の二室の壁面と廊下に、動物墨絵を並べ、Tシャツなどのグッズも用意されている。

確かに上手だし、根をつめて描いている。賢人らしい工夫もユーモアもある。ただ、それだけのことだ。何十年と書き込んだ詩文に比べて、数か月の墨絵には残念ながら深みがない。

おそらく賢人が熱心に更新しているインスタグラムでの評価に振り回されているのではないか。ネット上では、目新しいものが必要とされるし、見た目の派手なものに評価が集まるのだろう。そんなことを言う訳にもいかず、世間話でお茶を濁して会場を後にした。

最終日にもう一度顔を出すと、賢人は、相変わらず元気だ。会期を通じて、動物墨絵のグッズが売れないことを痛感したようだ。ただ、その手ごたえがわかったのはよかったという。

一方、賢人得意の「一言詩」の和紙に番号を振り、モビールの様にぶら下げて、それを竹のあみだくじで引かせる、という仕組み(これは1年くらい前からある)の評判がよく、20本も売れたという。だから、これからは、こちらを中心にやりたいと。

これには、僕も異存はない。一言詩は、賢人の言葉と思想と経験の結晶として、どれも傑作ぞろいだ。これをくじで引かせるというアイデアもいい。なぜか女性ばかりがくじを引き男性は誰も引かないと賢人はいうが、女性の方が占いやおみくじを愛好する傾向があるのだろう。

動物墨絵の寄り道をものともせずに、次への好機ととらえるのが、賢人流だ。会期中、いい出会いもあったとうれしそう。