大井川通信

大井川あたりの事ども

ジュニア版日本文学名作選『怪談』 小泉八雲 1965

子どもの頃にお世話になった偕成社のシリーズで、小泉八雲(1850-1904)を読む。「耳なし芳一」も「ろくろ首」も「茶碗の中」もとてもいい。懐かしいだけではなくて、とても面白く色あせていない。「盆踊り」について書いたエッセイも読ませる。

西欧人からの古き良き時代の日本へのまなざしは、驚きや愛情とともに、適度な距離感を保っているから、現代の日本人が読んでも共感できるところが多い。たぶん柳田国男をきちんと読むような機会は僕にはこれからないだろうが、小泉八雲はできるだけ読んでおきたい気がする。

ただ実は、僕が子どもの頃読んだ小泉八雲のアンソロジーは、偕成社のものではない。もう少し以前の確かポプラ社の本で、従兄からもらったものだったと思う。偕成社版より作品がよかった気がする。

それには果心居士(かしんこじ)という不思議な術を使う老人の話が入っていた。屏風に描かれた湖の水を座敷にあふれさせて、画中の船に乗り込んで、そのまま絵の中に消えてしまうというラストが好きだった。

平家蟹という関門海峡で採れるカニのデッサンの挿絵があるエッセイもあって、そのカニは没落した平家の怨霊が乗り移ったような怖い顔つきの模様を背負っている。「耳なし芳一」の怪談とセットでのっているのがよかった。