大井川通信

大井川あたりの事ども

テンちゃんと山伏どん

休みの日。妻は彫金教室に、次男は温泉施設に出かけたので、昼前にぶらりと家を出る。車だから、今日は大井川歩きモードではない。

駅近くのランチカフェで、マスターの高崎さんと、ランチを食べながら話し込む。ゆるキャラを考案し、絵本をはじめとする商品開発をし、行政を巻き込んで外へと展開していくことをまったく一人の思いでやっていることを先日知って、こんな人が身近にいるのかと驚いた。

たいていのご当地キャラは、大人たちの思惑が絡んで、あれもこれもとごちゃごちゃしたデザインになっている。高崎さんが生み出したテンちゃんは、この地域の田畑からかぬっと伸びあがったようなシンプルな姿で、かわいくも力強い。テンは意外と獰猛な動物らしいから、この土地のために大あばれしてくれそうな予感がする。

話してみると、土地への愛着や、気宇壮大な構想、一人を喜ばすことを信条としている点など、共感できることが多い。

持参した手作り絵本「大井始まった山伏」を開いて、さっとよみあげる。大井村の始まりの物語だけれども、この言い伝えを覚えているただ一人から聞き取ったものであること。断片的な伝承を創作で補ったこと。そのおばあさん亡くなる前に、病室で読みあげて喜んでもらったこと。こんなふうに大井の土地がもつ記憶からたくさんの物語を取り出して、キャラクター同士が絡み合う神話群をつくりあげたいこと。などなどを話す。

高崎さんは、妻の絵がうまいことをほめてくれた。妻に伝えたら喜んでやる気を出してくれるだろう。高崎さんの活動に刺激をうけて、僕もやる気になった。百の物語を作るという構想は、四つで止まったままだ。ここで止めるわけにはいけない。