大井川通信

大井川あたりの事ども

『ギタンジャリ』 タゴール詩集 1912

インドの詩人タゴール(1861-1941)の英語版詩集の翻訳(風媒社刊)を読書会で読む。タゴール自身が平明な英語に訳したものなので、とても読みやすかった。

ただ、時代も文化も違い、なかなか詩として面白いものが見つからず、どうなることかと思ったが、最終的に103篇中20篇近くに付箋をつけることができた。このあたり、僕が詩集に向き合う時の経験知が、ここでも当てはまるのは面白かった。

詩集を読むのは、野球の打席に立つみたいなものだ。3割がヒットなら一流打者。一流どころでも力が衰えたり不調だったりすれば2割バッターになるし、1割程度の低打率だって珍しくないのだ。その中で、ホームランとなるともっと少なくなる。このくらいの覚悟がないと、詩集など読めない。

本詩集は、タゴールが非ヨーロッパ人として初めてノーベル文学賞を受賞するきっかけになったそうだが、さすがに根気よく目を通せば、2割程度のヒットと、数編の長打を見つけることができた。すべてがいいなんてことはありえないが、すべてがわからないということもない。ただし、こうした大切な経験的な知恵を教えてくれる人がいないことを、不思議にも不満にも思ってしまう。

ここでは、詩としての面白さではなく、生と死をめぐる認識の深さを示す詩句を引用しておくことにしよう。

 

95「わたしは、このいのちの敷居をまたいで、はじめて訪れたときのことを知らなかった。そのちからはなんだったのか。真夜中の森のひとつの花のつぼみのように、この果てしない神秘のなかへと、わたしを咲かせてくれたのは!」

96「この無数のかたちからなる劇場で芝居を演じてきた。わたしはここで、かたちのないひとを見つけた」