大井川通信

大井川あたりの事ども

詩集『錦繡植物園』 中島真悠子 2013

5年ばかり前、新聞の夕刊に彼女の詩が載っていた。新聞で詩を読む機会はめったにないのだが、そのときは読んでとても気に入った。それで、大きな書店まで彼女の詩集を買いに行った。

詩集は、気楽に読み通したりできない。買ったばかりで何篇かめくってみた時には、新聞で読んだ「断章」という詩に匹敵する詩は少ないような気がしていた。

風に揺られて/あのひとの腕が手招きをする/と 昨日と明日の果てない距離を/振り子の太陽が渡っていく/私を誤読させるため/開かれた頁のような私の庭は/瞬間 黄金に輝き/静かに閉じられていく (「断章」終末部)

その後も気になって時々頁をめくっていた。今回、この夏以来の採点法で読んでみると、20篇中、〇が5編、△が11篇で、驚異の8割の最高打率である。詩人の世界に浸ってみると、「断章」が特別に抜け出した作品ではないことにようやく気づく。

家族、庭、植物、星、穴、土、命等がキーワードとなって濃密に繰り広げられる詩世界と、僕はどうも肌合いがあうようだ。今回は、いままで全くのノーマークだった「秘密」という作品に鷲づかみにされた。

先日、詩人高野吾朗さんの朗読会に参加して気づいたことだが、現代詩といえども、どうしても表現しないではすまされない何か、という愚直なものが根底にないと、読む者の心には響かないだろう。作者の詩には、それが確かにあると感じられた。