大井川通信

大井川あたりの事ども

ムンクの黄色い丸太

仕事が終わってから、金曜の午後の上野公園にいく。フェルメール展の入場予約時間にまでしばらくあるので、東京都美術館ムンク展をのぞいてみることに。

ムンクは、西洋美術館で大きな展覧会を観た記憶があたらしい。その時は、ムンクの絵が塗り残しがあるくらい、あっさり描かれているのが意外だった。それでやや印象が薄かった。今回は、その先入観のために、変な期待を持たずに作品に触れることができた。すると、やはりとても良かった。

ムンク「叫び」を知ったのは、いつだったろうか。精神病理学者が人間の精神について書いた著書の中だった気がする。人間の不安の心理の典型が描かれていると。なるほど、ムンクは孤独や不安など人間精神の根底を、見事に図像化している。画集などで見覚えのある大作やシリーズものを観ながら、あらためてそう感じた。

その中で、一枚の風景画が妙に印象に残った。人気のない森のなかに、一本の丸太が、こちら側に丸い切り口を見せて、斜めに置かれている。日が当たっているわけではないのに、丸太は黄色に染まっている。

何かの象徴というわけではない。しかし、どこか淋しい森に横たわる黄色の丸太の姿がしばらく心を離れなかった。