体調悪化で参加を断念した読書会での課題図書。左川ちか(1911-1936)は戦前のモダニズムの女性詩人で、25歳で夭折している。うかつにもその存在を知らなかった。
伊東整と交友があり弟子として影響を受けていたというが、彼の素朴なイメージの抒情詩とは全く異なる詩風だ。
戦後詩の吉岡実、黒田三郎、木原孝一らに影響を与えたらしく、「1930年代前後の日本のモダニズム詩を戦争をはさんで1950年代60年代へと繋ぐ、連続と断絶のミッシングリングの位置」にあると編者は指摘している。なるほど、妙に胸に迫るリアリティのある表現が顔をのぞかせる場面がある。ただ、短いものでこれだという作品を選びにくい。そのなかから二編。
その家のまはりには人の古びた思惟がつみあげられている。/ ーーもはや墓石のやうにあをざめて。/夏は涼しく、冬には温い。/私は一時、花が咲いたと思つた。/それは年とつた雪の一群であつた。 「雪の門」
夢は切断された果実である/野原にはとび色の梨がころがつてゐる/パセリは皿の上に咲いてゐる/レグホンは時々指が六本に見える/卵をわると月が出る 「花」 ※レグホンは鶏の品種