大井川通信

大井川あたりの事ども

悲しみはかたい物質だ 

別の詩を探していて、この一行に目が釘付けとなった。石原吉郎(1915-1977)の「物質」という詩。

今の僕の思いとは少し距離があるけれども、こんな詩に再会すると、石原吉郎の詩集をていねいに読んでおきたい、という気持ちになる。そんな気持ちのまま、何十年も生きてきたのだけれども。(命日が11月14日ということを、今回偶然知る)

はじめの三行が印象に強く残っていたが、書き写すと、四行目の「手づかみ」以下の比喩が意外によかった。いつか、後半にやや無造作に繰り返される「拮抗」という言葉にひかれる日がくるかもしれない。

 

 悲しみはかたい物質だ

そのひびきを呼びさますため

かならず石斧でうて

その厚みは手づかみでとらえ

遠雷のようにひびくものへ

はるかにその

重みを移せ

悲しみはかたい物質だ

剛直な肩だけが

その重さに拮抗する

拮抗せよ

絶えず拮抗することが

素手で悲しみを

受けとめる途だ