大井川通信

大井川あたりの事ども

田宮虎彦と武者小路実篤

今日は、田宮虎彦(1911-1988)と武者小路実篤(1885-1976)という二人の小説家の忌日だ。これを意識したのは初めて。

田宮虎彦は、昨年買った作品集第4巻から、「幼女の声」と「異端の子」の二つの短編を読む。前者は、大陸から苦労して引きあげてきた幼女の証言。後者は、シベリア抑留から戻った父親と疎開した姉弟への恐るべきいじめの顛末。

どちらも発表当時(1950年と1952年)話題になったそうだから、フィクションとはいえ、戦争と戦争直後の日本社会の一面をリアルにとらえているのだろう。悲惨でやりきれない題材の強さと対比して、作品としてはむしろひ弱な感じがするが、これも田宮虎彦らしさなのかもしれない。

田宮は、僕の姉が勤務中のビルの近くのマンションで投身自殺を図り、それがニュースになったのをよく覚えている。姉も田宮のファンだった。

武者小路は、岩波文庫の薄い戯曲集から、釈迦を題材にした「わしも知らない」を読む。昔読んだ子ども向けの文学全集の武者小路の巻に収録されていて印象に残っていたものだ。

同族の悲惨な運命を知りながら、自ら手を下すことをせずに受け入れ、その先にある法の実現を渇望する釈迦の姿は、史実とも仏教思想ともズレているのだろうが、それでも現代人の心を打つものがある。若き武者小路の28歳の出世作