大井川通信

大井川あたりの事ども

タヌキの街

近頃は、東京の都会でもタヌキの姿が見られるそうだ。僕の住むあたりでは、昼間でもタヌキを見かけたりもする。だから、タヌキ自体、それほど珍しいものではない。ただ近所も里山の開発が進んで、じりじりとタヌキの住める森の面積が減っているのは間違いない。

珍しく酔っぱらって、深夜2時の住宅街を帰宅する。このあたりは、この時間ともなると、人っ子一人いない。車ですら、たまにしか通らない。ふと見ると、街灯の明かりが届かない車道に先に、動物らしきものが立ち止まっている。猫だろうか。それにしては、一回り大きな角ばったシルエットだ。道の真ん中で動かないというのも変だ。

これはタヌキだ、と思い当る。しかし妙に堂々としている。都会とは違い、このあたりは、深夜には完全に街が寝静まり、世界がまったく反転する。昼間には里山に身を隠していた闇が街に侵入して、闇の生き物たちが街でも主役となるのだろう。人間の僕が、異邦人のように心もとない気分になるのだ。

朝、道で車にひかれたタヌキを見かけることがあるが、その理由を僕は誤解していた。タヌキが間抜けで、猫のような敏捷さをもたないからではない。闇の世界では、タヌキが王者なのだ。こそこそと無法の侵入者から身を隠す必要などない、と思い定めているのだろう。その結果、路上の礫死体となってしまうにしても。