大井川通信

大井川あたりの事ども

影絵の村

夕方近くなってから大井川周辺を歩く。

ムラの賢人の納屋兼ギャラリーを訪ねても不在。二冊目の新詩集が出来上がっていたので、代金を置いて一冊もらう。薄暗くなった庭に何か黒いものがひそんで、こちらを見ている。見つめ返すと、草むらに消えていった。タヌキだろう。

このあたりは街中でもタヌキを見かけることはそれほど珍しくないが、夜をむかえる森を背景にしたタヌキは、迫力というか霊力がちがう。場所の利が向うにあるから、ちょっと怖い。

中屋敷の路地を歩いて行くと、垣根の上に、暗くなった空を背景にして大きなクモとクモの巣のシルエットが浮かんでいる。オニグモだ。夕方に巣をはって朝にはたたむ習性があるから、今はったばかりの巣だろう。

ムラはどんどん闇に包まれていく。街道わきの田んぼのなかに、ごそごそ動く大きな鳥らしき影がみえる。キジだろうかと期待して目をこらすと、首を伸ばしたカルガモのつがいで、ちょっとがっかりして家路をいそぐ。