大井川通信

大井川あたりの事ども

必ずクラスを立て直す教師の回復術! 野中信行 2012 

1971年に教員生活をスタートさせた筆者は、70年代(まで)と、それ以降の現代の教師の仕事とがまるで違ったものになっていることを、冒頭、簡単な図で明示する。以前は、授業と行事に力をそそげばよかったのだが、現代は土台としての学級づくりが過半の仕事となっているのだ。

一見手軽なハウツー本に見えながら、本書が学校教育に対する本質的な提案になっているのは、この歴史哲学的というべき大づかみな認識のおかげだろう。また、筆者がこの手の本の作り手には珍しく、自分の生活を大切にして、残業を好まない教師であったことも、現代的な課題をとらえることに役立っている。

学校の現代的な課題とは何か。一つには学級の荒れや崩壊であり、もう一つは、その中での学力向上、しかも新しいタイプの学力の育成である。さらにそのための教員の育成が課題となるが、その阻害要因として教師の多忙化があげられる。

筆者は、第1の課題について、「空気と時間の統率」という視点から、「指示の徹底」「原因追及からの視点転換」「目標達成法」「スピード化」「学級システムの確立」等の具体的な提案をする。

第2の課題については、「味噌汁・ご飯授業」を提起し、その中身を「おしゃべり授業」ではなく、「子どもたちの活動を組み合わせる授業」として描き出す。また「見る、聞く、読む、覚える」というインプットの活動に対しても、「書く、話す、話し合う、動く」というアウトプットの活動を意識した展開が有効であるとされる。そして日々の授業は、基礎基本の確認と、活動の組み合わせとの「分割型」となる。

アクティブラーニング等の流行りの言葉を使わずに、しかも実際の現場でも可能な短時間の準備で、日常的に実現可能なものとして提案されていることが興味深い。

最後に第3の課題に対して、筆者が37年の教師生活で編み出した様々な仕事上の時間管理術が提案される。こうして生み出される心の余裕なしには、第1の課題にも、第2の課題にも生身の教師が対応できないという発想である。とくに、第2の課題について、教師の多忙化への配慮を伴った提案はとても貴重だと思う。