大井川通信

大井川あたりの事ども

「ガラスの茶室 ー 光庵」 吉岡徳仁

知人に誘われて、デザイナー吉岡徳仁(1967-)の作った「ガラスの茶室」の展示を美術館に観に行く。想像以上によかった。魅入られた。

ステンレスの細い柱で組まれたシンプルな構造物。柱から少し内側に四方をガラスで仕切られた空間がある。屋根はシンプルな宝形造だが、ステンレスの横材を何段にも渡しているのが屋根材をふいているようで、日本家屋らしい表情をつくる。

「室内」には、ようかんのような分厚いガラスの延べ棒が敷かれている。表面は有機物のような加工があり、薄い緑色に輝くそれが「畳」であると見て取れる。幾何学的な造形の中で、この「畳」の存在感は際立っている。茶室の三方に、ガラスの延べ棒のベンチがあり、それに実際に座れるのもいい。ガラスの壁に、にじり口が切られているのが、ささやかな茶室の主張となっている。

昨年、東京の「建築の日本展」で、展示室に実物大の茶室を再現している展示があった。博物館で有名建築のミニチュアの模型を見ることは多い。コンクリートで木造の五重塔を模造している寺院もある。しかし、このガラスの茶室は、そうした模型、模造とはまったく違うものだ。

本物の茶室を構成する木材などの自然素材とは全く違う、ステンレスとガラスだけで組み上げる。素材だけでいえば全く別物だ。形や質感を無理やり本物に寄せているわけではない。しかしその中で、建物の簡略さ、内外の連続性、屋根の存在感等の本質的な要素をしっかりと受け継いでおり、実際に茶を点(た)てることもできる。

だからこれはまぎれもなく茶室なのだ。しかしこのガラス張りの建物の、影を持たない一様の明るさはどうだろう。陰影と湿潤の世界から、光の世界へ。茶室は見事な転生をとげている。