大井川通信

大井川あたりの事ども

小型黄金蜘蛛の隠れ帯

僕の家は、以前レッドロビンの垣根で囲われていたが、管理も悪いこともあって伸び放題の上、虫がついてかなり枯れてしまったので、3年ほど前、擬木のフェンスに替えた。そこだけは少し贅沢をして、擬木の板のうち一段をアルミの鋳造品を入れたのが我が家の自慢だ。

ある朝、玄関正面のフェンスに、白いバッテンが描かれているのに気づいた。白いチョークではっきり書いたような太字のバツ印だ。庭の内側だから、外部の人が書いたものではない。妻が庭仕事の都合で、何かの目印につけたのだろう。しかし何のために。

近づいてみると、そのバツ印は、塀の間際に張られたクモの巣の中心部の細工であることが分かった。そこだけ白い帯のようにクモの糸を密集させて長さ10センチくらいのバツ印をつくり、その中心に黄色っぽいきれいな小さいクモが陣取っている。

なんとも不思議な光景だ。あわてて写真だけ撮って出勤する。あとでネットで検索すると、コガタコガネグモ(小型黄金蜘蛛)の隠れ帯というものだとわかった。

隠れ帯は、白帯とも言われ、クモの種類によっていろいろな形があるが、それを作る理由はよくわかっていないようだ。隠れ帯という命名の由来は、その帯に身を隠すということのようだが、いかんせん帯自体がひどく目立ってしまっているから逆効果だろう。

家族にはそのままにしておくように頼んで、観察することにした。すると、数日後、クモの様子がおかしい。隠れ帯から外れて、足を縮めて糸にぶら下がっている。突くとゆっくり足を広げたから生きているようだ。巣の上部に、クモの抜け殻みたいなものがひっかかっているので、脱皮したところなのかもしれない。

しかし翌朝には落ちてしまったのかクモの姿は見当たらなくなり、その数時間後には隠れ帯を含む巣の大部分が取り払われてしまっていた。塀の間際で獲物がまったく取れなかったのかもしれない。脱皮の際にアクシデントがあったのかもしれない。

では、巣はなぜ消えてしまったのか。体験上、クモの巣は主のメンテナンスがないとすぐに劣化してしまうような印象がある。見事な作品だけに、繊細な維持管理が必要だということかもしれない。