大井川通信

大井川あたりの事ども

訪問とお参り

大学卒業後、初めに就職した会社でのこと。今なら「朝活」とでもいうのだろうか、支店長が部下を集めて、ホテルの一室で朝食を食べながら、勉強会のようなもの開いていた。営業のたたき上げだった支店長は、自分の体験を交えて面白おかしく営業の「極意」を話した。

飛び込みの営業は敷居が高いものだけれども、相手先の会社に身内や知人が勤めているというだけで、自分は何の関係もないはずなのに、とたんに訪問しやすくなる。そんな話が、妙に印象に残っている。だから、少しでも縁のあるところに率先して訪問しろ、という話だったのかもしれない。

今回、Hさんの生まれた村を歩き回ったときも、出身の大先輩を一人知っているというだけで、すっかり親戚気取りで大きな顔をして、土地の人に話しかけることができた。なじみの土地になると、顔見知りが多くなるから、ますます訪問しやすくなる。

ところで、その土地でもっとも位階が高いのは、氏神を筆頭とする神仏だろう。だから、知り合いがまるでいない土地でも、その神仏の名を告げて「お参りさせてください」と暗黙の関係を誇示しさえすれば、土地の人からおろそかにされることはないのだ。