大井川通信

大井川あたりの事ども

神戸の鉄人

もう7,8年前になるだろうか、神戸に寄ったついでに、長田区にある鉄人28号の「実物大モニュメント」を見に行ったことがある。地元商店街等でつくる「神戸鉄人プロジェクト」が、2009年に震災復興と地域活性化のシンボルとして完成させたもので、当時はニュースで話題になっていた。神戸市出身である漫画家横山光輝(1934-2004)の偉業を顕彰する目的もあったようだ。

高さ18メートル。街中の広場でダイナミックなポーズをとる鉄人28号の雄姿には目を奪われた。

僕の世代のロボット漫画やアニメの原体験は、『鉄人28号』(1956-66)を始めとする横山作品である。『ジャイアントロボ』(1967-68)や『バビル二世』(1971-73)のポセイドン、『マーズ』(1976-77)のガイアーなど。

卵型のボディーから、円筒形の手足がにょろっと突き出たスタイルは、ガンダム以降のリアルなメカっぽいデザインを見慣れた目には、ずいぶん古臭く見えるだろう。しかし刷り込み効果は恐ろしいもので、僕にはこのスタイルのロボットが一番強く、かっこよく思える。

この鉄人像のことを思い出したのは、星野之宣(1954-)の『宗像教授伝奇考』(1994-1999)のなかのエピソード「鉄人の逆襲」を読んだからだ。

震災1年半後の神戸市須磨区の地中から、異様な鉄製の首が見つかる。宗像教授は、古代に百済から全身が鉄の大将が率いる軍団が日本に攻め上るが、神戸で討たれるという鉄人伝説との関連を考える。しかし功績をあせった考古学会のドンが、密かに鉄人の胴体を復元し本物の首をのせると、復活した鉄人が神戸の市中で暴走を始める、というストーリーだ。夜の街を蹂躙する鉄人のシルエットは、どこか鉄人28号を思わせるところがある。

もしかすると、作者には神戸市須磨区で生まれた横山光輝へのオマージュの意識があったかもしれない。しかし、10年以上後に、実物大の鉄人が神戸の街に登場するなど思いも及ばなかったはずだ。優れた漫画家の想像力の射程には舌を巻いてしまう。

今日で、神戸を襲った阪神・淡路大震災から24年。