大井川通信

大井川あたりの事ども

『市民の図書館 増補版』 日本図書館協会 1976

薄い新書だが、日本の図書館の方向を決定づけた重要な本らしい。増補前の初版は1970年の刊行。これを読んで、二点気づいたことがあった。

一点は、自分が半世紀以上生きてきて、その間に時代の大きな曲がり角を経験しているのだな、ということ。もう一点は、にもかかわらず、自分が生を受ける以前の世界のことはまるで想像外のことだということ。この二点は、あらゆる分野でいえることなのかもしれない。

まず、後者から。僕の自覚的な図書館経験は、1974年に開館した地元の「くにたち中央図書館」から始まっている。この館が僕にとってあたりまえの図書館のイメージを作っているのだが、この本を読むと、図書館をめぐる全国的な運動のうねりの中で、全く新しい考え方によって実現した図書館の一つだったのだ。

当時は人口一人当たりの貸出冊数が0.3前後で、先進諸国の数十分の一という状況だった。これが増補版の最新統計では、0.6冊に急伸しているが、最低限人口の2倍の貸出を目標に掲げている。(昨年の統計を見ると、現在は人口の5倍近くになっている)

このために、図書館の当面の重点目標を、①貸出➁児童サービス③全域サービスの三つに絞っている。とにかく新しい豊富な図書をそろえた上で、貸出のハードルを低くすること。徹底した児童サービスで子どもを図書館に親しませて、将来につなげること。分館、移動図書館のサービス網をはりめぐらすこと。

増補版では、東京多摩地区の躍進に触れているが、人口一人当たりの貸出数のトップ市町村として、当時運動のリーダー格だった日野市の7.39冊と並んで、国立市の6.14冊が示されている。当時僕が経験した状況は、全く新しく生み出されたものだったのだ。

ところが、現在の図書館は、『つながる図書館』(猪谷千香  2014)が簡潔にまとめるように、「無料貸本屋」批判を受けて課題解決等の新しいサービスを目指し、地域コミュニティの核としての働きや電子化への対応が急務となっている。

この間、世界のありかたは大きく変容し、モダンからポストモダンへと社会の仕組みや価値観も激変している。しかし、自分が常日頃関心のある分野以外では、なかなかその大きな変化に気づかない。昨年からの図書館司書の勉強で、自分の図書館のイメージが70年代で止まっていることに気づかされた。