大井川通信

大井川あたりの事ども

『地元経済を創りなおす』 枝廣淳子 2018

面白かった。今まで読んだ街づくりや地域経済の本の中でも、群を抜く面白さと説得力がある。

かつての地域おこしは、企業を誘致したり、補助金を受け入れたりすることが中心だった。とにかく地元にお金をもってくればいいと。しかし、そのお金がすぐに地方から出て行ってしまったらたいして効果がない。問題なのは、地域のお金を外に漏らさずにできるだけ地域で循環させることだ。

著者は「漏れバケツ」モデルと、「地域内乗数効果」という概念を紹介する。これには目からウロコが落ちる思いだった。地域経済を漏れバケツに例えることで、いかに漏れ穴をふさぐかという課題が鮮明になる。

乗数効果は、マクロ経済の基本概念で、公共投資された資金が、その後どのくらい消費に回されるかで、その何倍もの経済効果を生み出す、というあれだ。経済学の初心者でも知っている考え方だろう。理屈ではわかっても、消費礼賛主義というか、ご都合主義の匂いがして、なんとなくぼんやりとした理解しかもっていなかった。

しかし、これを、いったん地域で投入された資金が「地域内」に残ってどれだけ使われて循環するかで、地域にその何倍もの経済効果をもたらすという形に定式化すると、がぜん輝きを放ち、リアルな問題がくっきりとうかびあがってくる。

やはり最低限必要なすぐれた理屈は必要なのだと思う。と同時に、これほどシンプルな理屈が、今までたいして注目されてこなかったということが、人間あるいは人間社会というものがいかに多くの盲点や死角をもっているかを表しているような気もする。

著者はこのモデルにもとづき、まず地域経済の実情をしっかり把握することが大切だと主張する。地域経済の漏れ穴をふさぐ手立てを考えて、地域に本当に必要な仕事や企業を立ち上げた多くの実例を紹介する。

この本の主題と関係はないが、お金のこのような(奇妙といっていいような)振舞いや活用法を知ると、あらためてお金というものの不思議さを突きつけられたような思いがする。