大井川通信

大井川あたりの事ども

ある「副都心」の盛衰

僕は、大学を卒業した36年前に、転勤でこの地方都市に越してきた。全くの偶然としか言えないが、別の会社に就職した友人もこの街の支店勤務になった。

僕の勤務場所は、100万都市の中心街にあったが、友人の支店はそこから少し離れた街にあって、その政令都市の位置づけでは、「副都心」となっていた。

副都心? 東京育ちの僕たちにとって、副都心とは巨大都市新宿であって、地方への差別意識丸出しでそれを嗤い合った記憶がある。

それでも当時、その街の駅前には、三つのデパートがあり、放射状に広がるアーケードの商店街とスナックが集まる歓楽街があった。休日にはデパートの駐車場には長い列ができた。今では考えられないが、少し離れた住宅街の路上に駐車して何度か違反切符を切られた痛い思い出がある。

しかし、その頃すでに街の主力産業の衰退が言われており、友人の仕事の顧客にも自殺者が出るなど景気の悪い話が多かったと思う。やがて商業施設の撤退が始まり、アーケード街にもシャッターが目立つようになるが、行政のてこ入れによって、駅前に不相応な大きな複合ビルが建てられた。しかし全体的な需要の減少の中でお役所のもくろみが成功するはずもなく、すぐにそのビルも実質的に閉鎖状態となり、一部に公共施設を入れることでお茶をにごしている。

そして最後に残った駅前のデパートが、昨日閉店したというニュースを見た。涙を流す店長以下の店員が頭を下げる中、店のシャッターが下りていくというあのシーンである。

驚くべきことだが、これでこの副都心からは商業ビルはまったくなくなってしまった。アーケード街もほぼ空洞と化している。交通機関の中継点として利用する以外の目的でこの街を訪れる人は激減するだろう。

理由は簡単だ。かつてのこの街の「商圏」の範囲内に、今ではいくつもの巨大ショッピングモールがあり、十分な駐車スペースにより自家用車でのアクセスが容易になっている。売り場面積も品ぞろえも、駅前の小型デパートが対抗できるレベルではない。

ある程度の規模と体力がある街だけに、凋落が進行する姿は痛々しい。