大井川通信

大井川あたりの事ども

増税メガネの戦い

妻は小物をつくりながら、いつもYouTubeの政治系チャンネルを聞いている。もともと新聞もニュースも世間の事はなんの興味もなかったのに、動画を見出してからは、こんなものにはまっている。単純明快な理屈で、誰かを目の敵にするという論理が娯楽になるのだろう。中高年のネット右翼の誕生を実地にみるようだが、手の施しようがない。

増税メガネ」こと岸田首相は、いまや左右のどちら側からも叩かれている。まだ、一方からなら救いがあるが、袋叩き状態だ。当然妻も、今の世の中がうまくいかないすべての原因が「増税メガネ」にあるかのようにののしっている。

見かねて僕は声をかける。誰がやってもほとんど同じ事しかできないよ。国の凋落の原因は、僕らにあるのであって、岸田さんのせいではない。

もちろん妻が納得するはずもない。

岸田首相は、開成高校から東大を目指したがかなわず、二浪後に早稲田の法学部に入学している。僕より4歳年長だが、現役で僕が入学したときに3年生で在籍していたことになる。法学部棟だった8号館で、二年間何度も知らずにすれ違ったりしていたのだろう。若い時代に同じ時間と場所を共有していたことを知ってから、すっかり身びいきになってしまった。人間の弱いところだ。

ただ、他の政治家の妖怪のような風貌を見るにつけ、岸田さんの顔つきや物腰、言葉遣いが人間としての良さの現れだというのは間違いないと思う。

僕らの学生の頃は、まだ「理想」の残り火がある時代だった。しかし、社会で生きていく中で、はるかに「あいまいさ」のリアリティが圧倒的だと思い知らされる。

岸田さんが叩かれやすいのは、彼の掲げる建前めいた「理想」の看板のせいだろう。にもかかわらずリアルな「あいまいさ」に配慮して右往左往する姿勢のせいでもあるだろう。今の国民が熱狂するのは、もっと露骨なナショナリズムや優勝劣敗の論理だ。一方、旧態依然のあいまいさに対してはもっと明確なリーダーシップが必要なのは時代の要請かもしれない。

ともあれ、増税メガネ、いや岸田先輩の必敗の戦いは続く。