大井川通信

大井川あたりの事ども

古本市の大井川書店店主

津屋崎の旧玉乃井旅館でのトロ箱古本市に、昨年に引き続き出品する。津屋崎の漁港では、魚を入れるトロ箱が並んでいる。「一箱古本市」をもじった命名だ。

今回は勤務で会場には行けないので、文字通り小さなビニールケース一箱だけの参加となった。今回は、単行本のみで一律500円の価格とする。古本市の出品では一日の長がある息子の、ある程度の価格をつけた本の方が売れる、というアドバイスが耳に残っていたからだ。実際、遠慮して100円、200円の値段をつけた前回よりも、売り上げは多くなった。その値段に見合うように、店側も無意識にいい本を選んで出品した効果もあったのかもしれない。

玉乃井主人の安部さんによると、真っ先に売れたのが、東洋文庫の『思想と風俗』戸坂潤評論集、定価は3240円、全く読んでいなかったので新品同様だった。年配の紳士に買っていただいたそうだ。

この戦前の高名なマルクス主義哲学者の本を僕が購入していたのは、学生時代に好きだった劇作家・評論家の菅孝行が評価していたせいだろう。最近、その菅孝行が、久しぶりの著書を、新書の三島由紀夫論で出版したのには、驚いた。ずいぶん思想的には離れてしまった気がするが、学生時代の義理を果たすために、読み通すつもりだ。

今回のお店では、僕の代わりに、おもちゃのカエルに「大井川書店店主」の名札を貼って、店番をさせた。腕の先に硬貨をのせて跳ね飛ばすと、大きな口でキャッチして胴体に取り込むという貯金箱だ。仕掛けを試したくて本が売れる、という狙いだった。こちらは当てが外れて、小さな店主が得意げに口を開く機会はなかったようだ。