大井川通信

大井川あたりの事ども

フクロウの顔

津屋崎玉乃井に出向くと、安部さんの従兄の人がいて、安部さんの容体がよくないという。暗然として家に戻る。安部さんの大学時代の同人誌仲間の宮田さんに電話を入れる。

夕方、ヒメハルゼミの鳴き声を聞くために、大井の集落へ下りる。鎮守の杜では、目当てのセミしぐれが響いている。遠くからヒグラシの声が交じる。

夕暮れの集落を歩いていると、明治や江戸時代の村人とすれ違いそうな気がする。闇が開発の跡をあいまいに隠すと、うねうねと曲がる足元の道や田んぼの区画は、昔からそんなに変わっていないはずだからだ。僕が話をうかがった人たちの何人か、ムツコさんやひろちゃんはすでにそちらの世界に行ってしまった。

大井の納骨堂のある小山へ回る。耳をすましても、アブラゼミばかりで、ヒメハルゼミの声は聞こえない。そのとき目の前の畑の奥を、大きな鳥が横切る。トビかと思って双眼鏡を向けると、柵に止まっているのは、フクロウだった。

ハート形の縁どりのある大きな顔をこちらに向けている。夕闇の中とはいえ、フクロウの表情まで見たのは初めてだ。「ホー、ホーツクホー」という鳴き声を、夜の住宅街の電柱で聞いたことがあるくらいだ。

丸い頭と平らな顔、二つならんだ大きな目は、他の鳥にはない知恵と思慮深さをうかがわせる。童話の世界に迷いこんだよう。