大井川通信

大井川あたりの事ども

隣人を推理する(その1)

窓を開いて部屋の片づけをしていると、空き家になっていた隣家から子どもたちの歓声が聞こえる。ベランダで不動産屋らしきスーツの男が説明している様子が見える。入居希望の家族だろうか。

隣家の主人が職場での盗撮事件で逮捕された旨の記事が新聞に出たのは、昨年12月。その後ひっそりと暮らしていたようだが、今月に入ってとうとう引っ越してしまった。挨拶もなかったが、それも仕方なかったのだろう。

20年近い間、隣人だったが、とくに深い付き合いはなかった。お互いに相性が合わなかったのか、むしろ首をひねるようなことがごくまれにあった。その中でもとくに奇妙だったのが、以下の「事件」である。

隣家には男の子の兄弟がいて、二人とも野球チームに所属していた。夜遅くまで庭に照明をつけて、父親がバッティングの練習をさせていた。その頃のことだと思うが、あるとき、隣家の子どもが我が家にラーメンのセットを持ってきたことがある。後にも先にも何かをもらったのはこの時だけだ。

妻によると、野球のボールを我が家にぶつけたことへのお詫びだったらしい。ただ子どもの言うことだからどうも要領を得ない。これが僕には不思議だった。隣家の庭にはバッティング用のゲージがあるし、フェンスやカーポートの隙間をぬってボールが家の壁に当たるとは考えにくい。実際に、家族でそれに気づいたものはなかった。仮にそういうことがあったなら、その場で謝るのが普通だろう。

また仮にガラスや壁に被害があるなら、ラーメンくらいで済む話でもない。いずれにしろ親が顔を出すのが常識的で、小学生(だったと思う)の子どもに言づけるのもわからない。疑問符だらけの出来事で、その後長く、隣家の噂話をするときにはこの話を思い出して、妻と「少し変わった家だから」と結論づけたものだった。