大井川通信

大井川あたりの事ども

九太郎の儀式

明け方、はやく目が覚めてしまって起きだしていると、いつのまにか階下から九太郎がやってきて、ゴロゴロのどをならしている。ふとんがないから困るだろうと思って、横になると、案の定、僕の身体の上にあがってくる。

いつものように、両足で交互にふみふみをしてくるが、それだけでなく、腕にまたがるようにのって、そで口をかんだり、なめたりしては、身体のむきを入れ替えて、同じことをくりかえす。

昼間は僕のことなどは見向きをせずに、抱かれることも、身体をさわられることも嫌いな九太郎を、ここぞとばかりにいっぱい触る。のどの下、耳の後ろ、くび元、背中、しっぽの付け根。なぜたり、軽くかいたり、とんとんたたいたり。

深夜から明け方にかけての時間、どんな理由があって九太郎がこんなふるまいをするのかわからない。彼なりに大切な理由がきっとあるのだろう。

ばくぜんと僕はこんなふうに考えている。生後二か月でお母さんのもとを離れて、この家に連れてこられた九太郎は、今月ようやく九か月をむかえる。無心に甘えたり、スキンシップを受けたりする時間が、彼の生活の中でまだまだ必要なのだ。そんな九太郎の儀式に、何の気まぐれでか僕が必要とされている、というのはうれしい。

パソコンを使うために身体をおこした僕のひざの上で、九太郎はゴロゴロのどをならしたまま身体をまるくしていたが、のどの音はしだいに小さくなっていって、今はすっかり寝息だけになっているのです。