大井川通信

大井川あたりの事ども

『校長という仕事』 代田昭久 2014

東京都の公立中学校和田中で、有名な藤原和博氏のあとを受けて、同じリクルート出身者として二代目の民間人校長となった著者の体験記。ビジネスマンが、学校という異世界で何を感じ、どんな試行錯誤をして成果をあげたのかを、外部の人間向けにわかりやすくレポートしている。

さほど期待をせずに手に取ったのだが、学校や教員を見る目の公平さや、自身の能力や成功・失敗を客観的に見ようという視線が感じられて、好感をもって読むことができた。この手の本は、書き手の思い入れや自信が過剰だと、読み手を置いてけぼりにしてしまうところがあるが、著者はあくまで冷静だ。たとえば、前任者と自分の個性と仕事ぶりの違いを次のように説明する。

「改革がもの凄いペースで行われていたので、少し立ち止まりながら、改革によって生じたひずみを修正していく必要もあるだろう。企業などでは、一筋縄ではいかないビッグプロジェクトを修正しながら軌道に乗せていくことを、『たたんでいく』という表現を使ったりしますが、上手に『たたんでいく』ことは私自身が得意とするところでもありました」

すでの十年近く前の実践なので情報が古いところがある。しかし、かえってそのために、地域住民による「地域本部」や部活への民間指導者導入の取組み、教員の負担軽減やICT活用の問題意識が、いかに的確で時代に先駆けていたかがよくわかる。

デジタル教育の浸透によって、教育界が「縦割りの指導体制から抜け出し、現場の教員の権限が強くなっていくこと」への期待的予想が新鮮だった。デジタル教育のノウハウは文科省でも教育委員会でもなく現場にこそ蓄積されるから、というのがその理由だ。

パソコンやスマホの普及で個人の情報発信力が格段に高まったことから考えれば、たしかにデジタル技術は、教室が学びの主導権を取り戻す武器になるのかもしれない。