大井川通信

大井川あたりの事ども

「『流域地図』の作り方」 岸由二 2013

ちくまプリマ―新書の一冊だから、若い人向きに書かれていて、イラストも豊富で読みやすい。けれど、真に原理的で、そうであるがゆえに真に実践的で、革命的な本だ。と、やたら肩に力が入ってしまうくらい、素敵な本だと思う。

たとえば、かつて人類の歴史を子細に調べて、それを階級闘争の歴史だと把握し、その認識に基づいて、これからの人々の歩むべき方向をアジテーションする冊子が書かれた。目からウロコが落ちる思いでその冊子を手に取った人々は、実際に歴史の歩みに影響を与えることになった。

しかし、その冊子もしょせん「人類」という狭い枠の中の出来事に目をこらしたものにすぎない。この本は、地球環境全体と身近な自然に目をこらすことによって、新しいものの見方を提示して、人々の目からウロコを落とすとともに、足元から生き方を変更させようとする。大げさでなく、「〇〇党宣言」以上の思想的インパクトを持っているのだと思う。

水が生存にとって不可欠な僕たちにとって、地球の水循環の仕組みは、とても大切なものだ。水利用の話というレベルをこえて、そもそも僕たちが生活する大地自体が、水循環によって形づくられている。水循環によって形づくられた土地の上で、他の様々な生き物たちとともに、僕たちの生活は、水の流れによって成り立っている。

だから、地球上のあらゆる地点は、いずれかの「流域」(水系に雨水の集まる大地の範囲)に属している。川が支流から本流へとつながるように「流域」は入れ子構造になっているから、行政上の住所でなく、流域によって土地を住所化することが可能なのだ。

「流域地図」を作り、自分たちが暮らす流域を意識して歩き回ることで、流域地図を身体化していこうと著者は提案する。大地の凸凹と循環する水で賑わう生き物たちの生命圏を再発見し、流域での活動を軸として、地球環境の危機に対応していこうというわけである。「流域思考」「流域活動家」「流域主義者」などの、耳慣れない、しかし魅力的なキーワードが頻出する。

全世界の流域主義者、団結せよ!