大井川通信

大井川あたりの事ども

ツクツクボウシの話(まとめ)

職場近くで、9月以降はセミの地位を独占していたツクツクボウシの声が、10月9日を最後に聞こえなくなった。今の職場はこの地方の内陸にあり、自宅は海に近いところにあるけれども、気候などの条件に大差はないだろう。自宅近くでは、ババウラ池で10月4日に聞いたのが最後だ。これは、例年の10月10日頃までという記録や記憶と一致する。

以前の職場は海沿いだったのだが、その付近の林では、7月初旬に鳴き始め、7月の終わりごろにピークを迎える個体が一定数いた。それが終わったあと、一般のイメージ通りに8月中旬のお盆以降に主力部隊が鳴き始めるのだ。こうした早鳴きの少数派は、種の生き残りのためのリスクヘッジとして役立つこともあるかもしれない。

僕は小学生の夏休みの自由研究で、ツクツクボウシの鳴き声を調べて、データを取ったことがある。そのため、自分なりの聞きなしがあって、それに基づいて鳴きまねをするのが特技の一つだ。こんなことをしているのは自分くらいだと思っていたら、ずいぶん前に泉麻人の昆虫に関するエッセイに、少年時代の同様の経験が書かれていて、ちょっとがっかりした思い出がある。

今年になって、二人の小説家が、ツクツクボウシの鳴き方に注目していることに気づいた。梶井基次郎の『城のある町にて』と、梅崎春生の『桜島』だ。梅崎には『法師蝉に学ぶ』という短文まである。考えてみれば、これだけ目立つ鳴き声だ。日本人の生活とは切り離せないものなのだろう。

僕と泉と梶井と梅崎では、それぞれ聞きなし(鳴き声をカタカナに置き換えたもの)が違っていて、それも面白い。