大井川通信

大井川あたりの事ども

『地域衰退』 宮崎雅人 2021

地方衰退の危機的現象を描いた本や、その中で元気な地方の事例や町おこしの実際を描いた本は多いが、類書とは違う個性(骨太の分析と処方箋というべきか)が感じられた。

データに基づき、国の政策の関与の問題点も指摘しながら、地方衰退のメカニズムを明確に説明する。産業構造の転換などにより基盤産業を失った地域が、それに代わる産業を得られないときに、人口減少とともに地域は確実に衰退する。

それが全国的に広がったことには、サービス経済化という大きな動向がからんでいる。基盤産業となりうる「事業所サービス業」は、大規模な都市に立地を求める傾向があり、サービス経済化は大都市集中と地域衰退に拍車をかける。地域経済に残されるのは医療・福祉・教育などの「公共サービス業」が中心となるが、人口減少はこれさえも切り崩してしまう。

著者は、国による全国一律の施策と、その背景にある「規模の経済」という発想に根本的な批判を加える。農業も林業も、小規模経営こそ地域を守ることができる。その時必要になるのは、扱う商品やサービスの範囲を広くする「範囲の経済」や、需要や消費者の密度を確保する「密度の経済」への発想の切り替えだ。

地域衰退と人口減少を食い止めるためには、地域活性化の成功例や観光業への着目といった程度のことではなく、あくまで基盤となる産業が必要だ。著者は小規模発電や、事業所サービスの地産地消などの具体例を挙げるが、そのイメージはそれほど明確ではない。新しい方向性を示す以上、それは仕方のないことだと思う。

僕なりに言葉を置き換えると、地域で小規模ながら経済効果の高い営みを複数連動させて、可能な限りウイングを広げつつ、かつ密度の濃い実践をしていくことが必要なのだろう。