大井川通信

大井川あたりの事ども

大型種のゲンゴロウに出会う!

今から50年前の夏に、国立市谷保の田んぼで、小学生の僕は、体長一センチばかりの小さなゲンゴロウを採集するのに夢中だった。図鑑で見るような大きな黒光りするゲンゴロウは、公害問題の渦中にあった東京郊外ではすでに姿を消していたけれども。

今から16年前の夏、すでに中年になっていた僕は、ふと住宅街の下にある大井の田んぼに、ゲンゴロウが生き残っているのではないか思いつき、半信半疑で探し始める。やがて、ハイイロゲンゴロウやシマゲンゴロウ、コシマゲンゴロウといった、昔見つけたことのある小さなゲンゴロウたちと再会することができた。

自分の生活する地元には、意外な宝が眠っている。そこから鳥や、寺社や遺跡へと手を伸ばし、徐々に今の大井川歩きへとつながっていった。

この50年の間に、大型種のゲンゴロウは、全国でも絶滅危惧種として自然環境から姿を消し、大井の田んぼでも、近ごろでは生命力の強靭なハイイロゲンゴロウ以外の種類は見かけなくなった。やはりこの地でも開発の波が押し寄せているのだ。

今日、お盆の間降り続くといわれた豪雨があがって、ようやく外を歩けるようになった。釣川の水量を見ようと街道を歩いて行くと、ふだんのぞいたことのない田んぼが目にとまる。田んぼと畦道との間の溝が深く掘られていて豊富な水量に水草が生えている。いかにも田んぼの生き物たちが好みそうな環境だが、街道のすぐわきのために今まで見逃していたのだ。

まずはたくさんのヒメガムシの姿に魅了される。よく見るとコガムシも交じっている。目をこらすと、やはりハイイロゲンゴロウの活発な姿があちこちにある。やがて、ゲンゴロウやガムシの幼虫がわんさと泳いでいるのが気になりだす。ハイイロゲンゴロウらしき幼虫が、エサをつかまえてむしゃむしゃ食べる様子が興味深い。エサはほとんど小さな二枚貝のようなカイエビだ。これが今日の発見だと思って、畦道にしゃがんでじっくり観察していると、不意に視界にコシマゲンゴロウの姿が入ってきた。

久しぶりの姿に興奮して素手で捕まえようとするが、何回かチャレンジしてもうまくいかない。やがて肝心の虫の姿も見失ってしまい、立ち上がってあちこちの水草の茂みをのぞいて回る。

その時。わが目を疑った。大型のゲンゴロウが二匹、水中を戯れるように泳いでいるのだ。つややかな黒い胴体に黄色い縁取り。オールのように太い後ろ足。

もちろん4センチある本物のゲンゴロウ(ナミゲンゴロウ)であるはずはない。本県では何十年も発見されていないのだ。それより一回り小さいコガタノゲンゴロウに間違いないが、それでも体長三センチ弱あり、水中の王者の風格がある。

僕の水生昆虫の探索は、畦道にしゃがんで田んぼの中をのぞく、というとても限られた方法だから、珍しい種類を発見するには不利なやり方だ。けれども、彼らの日常の生活をかき乱さずに観察できるという点で、僕は気に入っている。

大井という僕のフィールドで、僕の前に絶滅危惧種ゲンゴロウが姿を見せてくれるなんて。僕はこんなシーンを何度も夢の中で見ている。実際にそれが実現すると、その夢の中の情景とまるでそっくりというのが不思議な気がする。

昨年の冬は、あこがれのモズの早にえを見ることが出来て感無量だったが、大型種のゲンゴロウというのは、インパクトではるかにそれに優る。というか、そもそもありえない出来事なのだ。

コロナを乗り切ったことへの神様からのご褒美だろうか。あるいは、地元で生きていくことを決意した僕に対する激励だろうか。