大井川通信

大井川あたりの事ども

『新・百人一首』 岡井隆・馬場あき子・永田和宏・種村弘(選) 2013

「近現代短歌ベスト100」が副題の文春新書。

すぐれた短歌を味わいたいと思って手に取ったのが、一読、正直なぜこんな歌が選ばれているのだろうと不可解に思う事も多かった。一方、以前から知っている歌については、なるほど素晴らしいと了解できた。

おそらく、短歌については、素人が一読で味わいつくすということはできない性質のものなのだろう。何度も目を通し、口にして、言葉の感触を確かめ、その都度想像力を柔軟に発動させることを通じて、その良さがわかっていくものなのだろう。

巻末に選者たちの座談があって、これが短いながら面白く、歌の理解にだいぶ役立った。やはり著名な歌人である選者たちは、言葉の達人であり座談の名手である。短歌が結社という人間関係のもとに成立して、師匠と弟子という関係を大切にしている理由が納得できたような気がする。

これだけ短い言葉の形式からあらゆる芸術的な可能性を引き出す技芸は、個人の手に負えるものではないのだろう。

「遺棄遺体数百といひ数千といふいのちをふたつもちしものなし」(土岐善麿

僕の出身高校の懐かしい校歌の作詞者が、こんな歌を詠む気骨のある歌人だったことを知ったのも収穫だった。