大井川通信

大井川あたりの事ども

兄弟悲喜こもごも

夕方、長男から電話がある。7月上旬の東京行きの土日にひとり家に残る妻の相手をしてほしいという頼みをしていたのだが、その返事だけで電話をくれるとは思えない。仕事が終わったばかりなのか、なんだか声も弾んでいる。

その頼み事のラインをしたとき聞いてはいたが、3日間本社からくる部長を九州の取引先に案内する重要な仕事があって、それが無事に終わったからホッとしているのだろう。留守番の話を確認して電話を切ろうとすると、主任に昇任するよ、と照れたような声で報告がある。

部長から別れ際に切り出されたそうだ。本人からは、もう少し先の目標として聞いていたが、小さな支社のなかでの頑張りが本社から評価されたようだった。大人びた如才ない立ち居振る舞いが長男の持ち味だが、それが仕事での武器になっているのだろう。本人は、何より、まとまった額の昇給がうれしそうだ。

週末にでもまた博多駅前で会おうと言って電話を切る。食卓で電話を聞いていた次男が、主任は大変だからね、と訳知り顔でコメントをする。自分の施設で、責任を持たされた主任職が苦労していたのを見ていたのだろう。

失業生活を満喫している次男はまったく気にしてはいないようだが、それでも兄の仕事での成功の話を手放しで喜ぶことはためらわれる。妻にもその辺の感覚は通じているようだ。

3年前、コロナ禍の一年目に、長男が家で9カ月くらい失業していた時は、毎日仕事のある弟から「高学歴ニート」とからかわれていた時期もあった。立場は逆転だ。人生はあざなえる縄のごとし。人間万事塞翁が馬。浮きつ沈みつしながら、兄弟で助け合って生きて行ってくれたらと願う。