大井川通信

大井川あたりの事ども

『カブトムシの謎をとく』 小島渉 2023

ちくまプリマー新書の最新刊。こういうタイトルの本はすぐに手を伸ばしてしまう。

僕の近年のカブトムシ体験には「謎」が二つある。この二つの謎の回答を見つけるヒントになるような記述があった。

もう5年以上前のことだと思うが、東京郊外の実家近くの緑地で、カブトムシを見つけたことがある。僕が子供の頃虫取りをしていた場所で、今よりも自然年前っていた50年前にいくら探しても見つからなかったカブトムシが当たり前のようにいたのだ。

もう一つ、これは3年前、今の家の近くの小さな神社の境内に毎朝のようにカブトムシが落ちていたのだ。カブトムシのバラバラの死体もあった。境内には銀杏の大木があり、周囲には常緑広葉樹の小規模の森があったが、クヌギは見当たらない。

まず一つ目の謎だが、近年田舎の里山の荒廃が著しい中で、都会の緑地でカブトムシが見られるようになっているという。渋谷近くの小さな緑地でも観察できるというくらいだから、多摩地区の大規模な緑地帯は生息環境として問題なかったのだろう。

だから今の自宅近くでカブトムシが生息しても不思議ないのだが、小さな神社の境内に集中的に落ちているなんてことがあるのだろうか。著者は、採集旅行の際、地元民の情報で、集落の何の変哲もない小さな公園にカブトムシがよく落ちているという情報を得て、大量に捕まえることができたという。カブトムシのプロである著者がその時は半信半疑だったというから、そういう謎のスポットは存在しうるのだ。

ただ、この本を読むと、カブトムシもクヌギ一辺倒ではなく、他の種類の樹木を自分で傷つけて樹液を出し、エサにすることがあるようだ。自宅近くの神社では境内の落ち葉大木の根元付近に大量に堆積させていたので、それが幼虫の生育場所になっていたとも考えられる。

著者によるエサ場近くの死骸の調査結果では、犯人の大半はカラスとタヌキだったというのは面白い。地元の神社の周囲では何度かフクロウを見かけているので、カラスだけではなくフクロウも犯行に加担していたのではないかと推測している。

その他、カブトムシにまつわる研究成果やその経過報告がのっていて興味深いが、話のネタになるような驚くべき発見みたいなものはなかった。著者も注意喚起しているが、自然というものは複雑であり、そんなにすっきりするような明解な結論がでるわけではないのだ。

ある林の観察で、朝方に登場する少数のスズメバチが、たくさんのカブトムシを短時間で排除しているという報告は面白かった。もともとスズメバチの開拓したエサ場だからではないかという仮説を著者は述べているが、本気を出せばそんな力があるとはさすがスズメバチ

なお、著者は、カブトムシのみならず、その他の虫や鳥類、魚類、植物と、生物全般の生態に好奇心を持ち続けている。その好奇心と行動力を土台に、いかに研究を行うかの指南書にもなっていて、うらやましくもまぶしい本になっている。