大井川通信

大井川あたりの事ども

出来事が沸騰する

ごくごく平凡な毎日を送っているが、何かがきっかけになって、いろいろな出来事が一時に押し寄せてくることがある。今がそうだ。他人から見れば、ちいさなさざ波に過ぎなくても、本人にとってはちょっとした事件だ。一つ一つの出来事は、それぞれ過去にそれぞれの起源をもっている。

学芸大の大村さんからメールが届き、本を紹介される。気鋭の教育学者だが、7,8年前、彼が現場の教員時代に濃密なやり取りがあった。若く優秀な知人からの連絡に緊張が走る。年をとっても無様な応答はしたくないと思う。

ネットで久しぶりに「へびゴマ」を検索する。半世紀前の東京郊外の駄菓子屋で出会って以来、ずっと追い求めてきたおもちゃだ。同じ原理のプラステックのコマは手に入れたが、半世紀前の鉄製のコマを手にしたい。

ネットをみると、なんと見覚えがある小箱入りの本物が安い値段で売りに出されているが、残念ながらソウルドアウト。デッドストックがたまたま市場に出たのだろう。昭和30年代の商品というから間違いない。あきらめきれずにお店にメールをする。藁にもすがる思いだ。期待はしていなかったが、なんとまだ点検前の在庫があるという返信が。

50年来の夢がかないそうな余勢をかって、懐かしい子供の頃の本をまた探してみようと思い立つ。子供の頃の思い出の本は、このネット時代の恩恵に与って、たいてい手に入れている。相当マイナーと思われるものでも見つけることができるのだ。

ただ、文庫本の半分くらいのミニ本で、肌色のビニールカバーにくるまれた学習事典シリーズが見つからないのが心残りだった。僕が小学生の頃最初にことわざを覚えたのがこの事典だったのだ。出版社もわからないし、あの形状の本の呼び名もわからない。

しかし本気をだせばどうにかなる。あの「へびゴマ」さえ見つかったのだから。オークションサイトで検索ワードをいろいろ試しているうちに、こちらも半世紀以上前の事典の画像を見つけることができた。

名称は「福音館小事典文庫」。とりあえず少し汚れた『学習人名小事典』を落札するが、名前さえわかればいずれ状態のよい別の本も手に入るだろう。

外田さんから、安部さん遺稿集の納期の連絡が入る。出版基金Aの郵便口座の現金を全額引き下ろして支払いの準備に入る。10年以上ほったらかしにしていた口座だ。なんとなく後ろめたくて、この残金をどうするのか安部さんに言い出しかねていた。安部さんの方もそうだったのかもしれない。

しかしそのおかげで、こうして安部さんの遺稿集を作ることができたのだ。たとえ少額でもこの基金の残高があったからこそ、外田さんの協力を得て、マイペースで気楽な本づくりをすすめることができたのだと思う。資金を集めたり、仲間を募ったりしての作業はとても僕には担い切れなっただろう。