大井川通信

大井川あたりの事ども

仮想の友と歩く

駅から自宅までの帰り道は同じ道を歩くことが多いが、途中で病院の敷地内を通り抜けることもある。病院は岡の上にあって、いつも歩く道はその周囲を迂回しているので、多少ショートカットにはなるのだが、階段を上り、坂を下らないといけない。樹木も多く公園のようだし、眺望もいい。

今日、歩きながら病院への分岐に目をやったときに、ふと最近友人と楽しく話しながらその道を上った気持ちがした。いや、帰宅の途中に連れがあったことなどない。そういう夢を見たのかと思ったが、どうもそういうこともなさそうだ。

キツネにつままれたような気分になる。ばくぜんとだけれどもそんな記憶がある。しかし現実の世界でも夢の世界でもそんな経験はない。

そのとき、ふと気づく。数日前にふと思い立って友人に電話をかけて、病院の岡を上りながら短時間楽しく話したことがあったのだ。

岡の小道には、たしかに携帯を通して友の声が響いていた。そのことの記憶が、思い出すときに「友と歩いた」経験へと変換されたのだろう。小さな「変換ミス」だが、どうも今までそういうことはなかった気がする。これも加齢による記憶の揺らぎかもしれない。

記憶力の衰えと付き合って生きていくことには慣れているけれども、こんな思い違いは楽しい部類かもしれない。