退職前にクレジットカードを作っておいた方がよい、というアドバイスに従って、自分の預金通帳を登録したカードを3月ギリギリになってつくって満足していた。そして、手元にたまっていた期限切れのクレジットカードの残骸みたいなものを、バッサバッサと処分した。
新しく作ったカードにはポイントがつくという。このポイントというのもよくわからない。世を挙げて、ポイント、ポイントの連呼だ。そんなものに頼らなくても、生きていけるぞ。だから現金払いのときも、レジでポイントをつけたことはなかった。
さて、新規カードのポイントの特典が今月で切れるそうだ。よくわからないなりに、この特典を流すのはもったいないような気がする。いよいよカードを使うときがきたか、とちょっと緊張する。
しかしその時はあっけなく訪れた。今日、本屋で支払いをするとき、直前まで退職祝いでいただいた図書カードで払うつもりだったのだが、ふとクレジットカードを使うことを思いついたのだ。だいたい、僕は本くらいしかある程度高額の買い物をしない。使うなら今しかないのだ。
そして、あたふたと新しいカードを差し出す。理屈ではこれで買い物が成立するはずなのだが。目の前にテンキーが差し出される。あわてて暗証番号を頭の中にさぐる。妻の動作を隣で見ていたから、大丈夫。これでいいんだ。
そしたら、本当に現金を渡さずに買い物ができたのだ。キツネにつままれたよう。もちろん理屈ではそんなことはわかっている。しかし、実際に自分が体験するのとは、まるでちがうのだ。と、ここまで考えて・・・
自分が本当にクレジットカードで買い物することが初めてだったことに気づいて、我ながら驚いた。この現代社会で、人並みに仕事をし、経済活動をしながら、カードを使ったことがなかったなんて。ぼくぜんと、何回かはあると思っていた。しかし実際は、人が使っているのを見て来ただけだったのだ。
さて、翌日、こんどは余裕綽々でレジでカードを出す。しかし、あせって二回続けて入力のタイミングを失敗し、店員から慇懃無礼な感じでたしなめられる。サインで購入する羽目になって落ち込んだが、これも勉強か。