大井川通信

大井川あたりの事ども

「イエスの方舟」を聴く

職場の上司が、中洲にあるイエスの方舟の人たちのお店「シオンの娘」の常連だったことから、何度かそこに付き合わされたのは、もう10年以上前のことだ。その時は、同じ東京郊外出身の彼女らと、ローカルな情報で盛り上がった。イエスの方舟の教会がかつて国分寺にあり、地元出身者も多かったのだ。

上司が退職してからは、お店に行くこともなくなったが、東京郊外で生まれ育ち、九州の玄界灘の近くまで「漂流」してきて居ついたという同じ運命の「同伴者」として勝手に親近感を抱いてきた。

その後も、テレビで彼女たちの生活が取り上げられたり、二年前には中州の店をしめて別の場所に移るという新聞記事を見かけたりした。元気だったころの安部さんが方舟に興味があったので、案内を理由に再訪しようと考えたこともあった。

4月から久しぶりに電車通勤になって、ふととある駅前のビルの看板に「イエスの方舟」の文字を見つけて、店の移転のニュースを思い出した。こんな近くに来ていたのかと。数日後、思い切って寄ってみることにした。酒をのまない僕には、こうした店は敷居が高い。

常連だった上司が死んだことは、お店の人達には伝わっていなかった。彼も孤独な人だったのだろう。以前お店で話した中で一番近所の出身だった人は、僕のことを覚えてくれているようだった。カラオケの轟音で聞き取りにくかったけれど、生い立ちや、母親と通った教会の日曜教室の様子、「事件」後に九州まで追いかけて来た理由。責任者の千石さんへの信頼など、たくさんのことを話してくれた。

彼女たちは、教会で毎日聖書を読む生活を続けているようだ。千石さんの死後もメンバーのあり方は変わらず、世俗的なクラブ経営との両立を果たせてきたのも、(教祖や教団を物神化せずに)あくまで聖書の言葉を中心においた暮らしをしてきたからだろうと思う。

彼女との話に満足できたので、名物のショーが始まる前に店を後にする。

 

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