大井川通信

大井川あたりの事ども

美術展で仏教を学ぶ

府中市美術館には頭が上がらない。帰省先の隣町だから気楽に寄れるし、ユニークで切れのいい特別展は、いつも予想をこえて面白い。牛島憲之の常設展示スペースがあるのもよい。

今回の特別展は『ほとけの国の美術』。誰もが知るような目玉の展示作品があるわけではないが、テーマ別にストーリー性と意外性のある展示が試みられている。

たとえば、最初の「浄土と地獄」のコーナーでは、二尊院の17幅の来迎図をならべて、巨大スケールで本堂の来迎空間を再現する。また、「禅」のコーナーでは、禅の知恵の数々がそれに対応する絵によって解説される。

荘厳な仏画のコーナーもあれば、ユーモラスな仏画を集めたり、円空仏を展示するコーナーもある。「動物画」に大きな比重を置いているのも、人間とは別の生き物(自然)にどう対するのかという現代的なテーマに示唆を与えるもので斬新だ。

僕はせっかちで美術展などでは展示解説など飛ばしてしまいがちなのだが、今回は目下関心のある仏教の復習もかねて、じっくり読んだ。やはり知識や教養のためでなく自分の信仰にかかわる問題ととらえないと、人は真剣に学ぼうとは思わないのだろう。

さらに東京国立博物館で、建立900年記念の特別展『中尊寺金色堂』を観る。

こちらは、超有名仏堂の国宝仏像11体を並べるという派手な展示で、コンパクトな構成ながら有無を言わせない力があった。金色堂自体は、入口の大型ディスプレイ上に原寸大で映像として再現され、順路の最後には精巧な縮小模型もある。

金色の国宝仏像は、それぞれ単独のケースに収められ、阿弥陀仏を中心に堂内と同じように配置されているから、鑑賞者はいわば内陣に足を踏み入れて仏様の間を縫うように歩き回りながら至近距離で全方位から各仏像を観ることができる。まさに夢のような空間だ。小ぶりながら、各仏像の姿はさすがに見事だ。

たまに阿弥陀仏の前で手を合わせる人がいる。熱心な信仰者だろう。しかし大多数は、じろじろと好奇のまなざしを向けるばかりだ。西行芭蕉など名だたる文人も参拝した尊像に対して、やはり何かが大きくズレてしまった態度のような気がする。

とはいえ建築ファンとしても楽しめる展示で、金色堂の前に11体の仏像を立てられるアクリルスタンドを買ってしまった。