大井川通信

大井川あたりの事ども

ネコジャラシのおみやげ

大井川の岸を歩いていると、ネコジャラシがたくさん生えている。ふと九太郎に遊ばせようと思って、数本を茎の根元から折って持ち帰った。

近ごろ、妻が100円ショップなどで、猫用のおもちゃを買うことが多くなった。プラスチックの細い棒の先に糸が結んであって、その先に、虫か鳥に見立てたような小さなおもちゃが取り付けてある。それを振ると、なるほど猫が喜んで、飛びついて追い回す。おとなしすぎる九太郎には、よい運動になる。

ただプラスチックの棒の先で目でもつついたらいけないし、人工物のおもちゃを口にさせるのは身体に悪いかもしれないなんて、まるで人間の子どもに対するかのようにいろいろ心配してしまう。

その点、ネコジャラシなら安心だ。家に帰って妻に聞くと、意外にもネコジャラシで遊ばせたことは一度もないという。九太郎の眼の前で振ると、人工のおもちゃとは食いつきがまるで違う。最初のダイビングからして、本気の驚くべき跳躍だ。穂の先にかじりついて、最後にはかみ切ってしまった。

ネコジャラシの穂は、本物の生きたエサに見えるだろう。それがしなやかな茎の先で、ちらちらと、機敏に、柔軟に動き回る。猫の本能が、つかまえろという本気の指令を出しているのが良く分かる。人工のおもちゃの比ではない。

ただ、今度は穂の先に寄生虫でもついているのではないかと心配してしまう。九太郎は家から外の世界を知らないおぼっちゃま猫だ。過保護の親のように余計な心配をする。

調べるとネコジャラシは、エノコログサというらしい。そんな名前を聞いたことがあるような気もするが、覚えてはいなかった。イネ科の雑草で、穀物のアワの原種らしく縄文時代の終わりにアワ作とともに日本に入ってきたものという。穀物の仲間だから飢饉の際には食用にもしたそうだ。

大井にも享保の大飢饉の年に建てられた庚申塔が残されているが、村人の多くが飢えで亡くなるような飢饉のときには、これを刈り取ってわずかな腹の足しにしたのかもしれない。