大井川通信

大井川あたりの事ども

『記者市長の闘い』 滝口凡夫 2002

地元の市で三期12年市長をつとめた著者の回想録。すでに20年が経った時点から読むと、市政の金権体質の克服も、市町村合併も、大学等の誘致の話も、どれも小粒で平凡な話に思えて、さほど興味が持てない。実際に関わった人間たちにとって、大変なエネルギーが必要な作業だったのはわかるが。

マスコミの世界で功成り名を遂げた人物が、地方政治の世界に入るとこうなるというドキュメントとして読んだ方が面白いかもしれない。組織のトップに近い立場にいてある程度のマネジメントを経験している人でも苦労するのだから、記者やアナウンサー出身では上手く行かないのも無理はないのだろう。

職業柄、政界や財界や文化人の誰それを知っている、お世話になった、という話が多くなるのは仕方ないのかもしれない。しかし、やはり、薄っぺらく、表層的な感じは否めない。地域主権とはいいながら、肝心の地域は、政治家と市役所内外の話以外は、市史から引用したような歴史の紹介でお茶をにごされている。

地元の文化施設の初代館長で元NHKアナウンサーの井川吉久氏の名前が出てきたのは懐かしい。NHKでニュースに出ていた時は、母親が「たぬちゃん」と愛称をつけるくらいのファンだったからだ。同じマスコミ人のよしみからか著者は功績を絶賛しているが、市民としては、ちょっと謎の人選だった。