大井川通信

大井川あたりの事ども

新型コロナウィルスに感染する ⑧(生命の倫理)

今の病院に入院させてもらって治療が始まった時は、とても嬉しかった。若い看護師さんの中には、重い病状の僕に「自覚症状」がないのが怖かったと後から教えてくれた人がいた。もちろん辛くなかったわけはない。つきっきりで治療してもらえることが、とにかくありがたく、そう口にしていたのだろう。

しかし数日のうちに、自分の身体の状態が尋常でないことに気づくようになる。とんでもない量の酸素の吸入。主治医の口ぶりからは、数日で肺が悪化し、機能が失われていくのがわかる。後で知ったのだが、コロナの認可薬と大量のステロイドの投与で、なんとか持ちこたえたらしい。

そんな自分の身体の状態は、自分にはよくわかるものだ。夜中辛さに耐えているとき、はっきりと死を意識した。 

自分の身体の苦しみと痛みを自分だけのものとして引き受ける。そうして最期を迎える。この苦しみと痛みを全うするのが、自分の最期の務めだ。人が、いやあらゆる生命が、本当にはたさなければいけない倫理は、それだけだ。それ以上に価値ある生き方などはない。

孤独で辛かったけれど、その思いだけは揺るぎがなかった気がする。多くの先輩たちがたどった道なのだ、と思う。何より、僕は二年前に、てんかんの大きな発作で亡くなった子猫のハチから、生命の全うの仕方を学んでいたのだ。

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