大井川通信

大井川あたりの事ども

『セクシィ・ギャルの大研究』 上野千鶴子 1982

上野千鶴子(1947-)の処女作。光文社のカッパブックスの一冊で、カバーに山口昌男栗本慎一郎の推薦文がのっているというのも、何とも時代を感じさせる。両者とも前時代的な冗談を駆使して、この本の画期性や面白さを絶賛しているところも。

森岡正博の『もてない男』があからさまに自分の性の問題を語っていてひどく面白かったので、そのつながりでこの本を久しぶりに読んでみたのだが、期待したほどではなかった。

同時代の広告をふんだんに使って、男女間のしぐさの文法を記号論的に読み解くという手法が、当時は斬新だったのだろう。また、当時はポスト・モダンの入り口で、社会や文化の動向への期待が強くあった時代だった。その後のずぶずぶの時代の経過と、理論の地盤沈下が、この本を魅力の大きな部分を奪ってしまったかもしれない。ただ、若き上野千鶴子の切れの良い文章は、今でも十分に読める。

当時よりずっと性をかたる間口は広くなってはいるが、別の意味でタブーも広がったような気がする。僕がこれから身体の問題に向き合う上で、性について避けては通れない。そのためのヒントは散りばめられている本だった。

ところで、若いころから上野のファンだった僕は、記憶にあるだけでも5回は彼女の講演やシンポジウムに参加している。再来月、僕の住む地域で上野の講演があると市報に載っていたが、当日は抜けられない介護の研修会がある。僕のフィールドへの降臨だけに残念。