読書会の課題図書で読む。昔懐かしい明智小五郎シリーズ。確かポプラ社で、同じような装丁のシャーロックホームズと怪盗ルパンの両シリーズとともによく読んだが、やはり明智小五郎が一番好きだった。
今回読み返して、いかにも少年もので、それまでの乱歩の作品とかなりの落差があることに驚いた。子どもの頃読んだ乱歩のリアリティは、大人になって読んだ彼の代表作と地続きであるような印象を持っていたからだ。
おそらくその理由は、これが乱歩の少年物第一作めで、子どもが楽しめるようにかなり気をつかったせいなのかもしれない。親切な語り手が、場面の導入や伏線の予告などをていねいにしてくれるところが、特別に子ども向きに感じられるところなのだろう。
岩波文庫には、戦後の『青銅の魔人』が併せて収められているが、だいぶ書きなれた感じがあって、魔人の不気味な姿には乱歩らしいおどろおどろしさがにじんでいる。
時代が戦前だから、トリックや秘密道具が物理的なものに限られている点が、今ではかえって新鮮だ。とらえられた小林少年の秘密の通信手段は伝書鳩であり、ホテルの一室で二十面相と対決する明智の切り札は、ホテルの外にいる小林少年への手旗信号みたいなものなのである。
この小説では、案内役の語り手が、自由自在に事件の現場や怪盗のアジトでの決定的な場面に案内してくれる。しかし、現実の世界にはそんな超能力のある案内人など存在しない。それをペン一本で実現させてしまう小説という装置の力は、やはりすごいと思った。