今月8日に漫画家の白土三平が亡くなったという報道が、月末になって出た。作者はあまり表に出てこないし、かなり昔の人というイメージもあり、なにより作品が巨大すぎて生身の作者が想像しにくかったのかもしれない。亡くなったと言われても、ちょっとピンとこない感じがする。
子どもの頃、駅前の本屋で「カムイ伝」の全巻の立ち読みをして、そのスケールの大きな独特の世界にひきこまれた。「カムイ外伝」を読んで、カムイの秘術「変移抜刀霞切り」の真似をした。
少年物の「サスケ」も「ワタリ」も面白かったが、一番夢中になったのは「真田剣流」だ。続編の「風魔」とともに、さまざまな忍術と登場人物たちが織り成す世界にすっかりはまりこんだ。
折に触れて読み返してきたのは、「忍法秘話」としてまとめられた諸短編。珠玉のような佳作が目白押しで、繰り返し読んでも飽きない。
たとえば、「ざしきわらし」という短編では、組織を抜けた腕の立つ老忍者が、とある村の家に座敷童として隠れて、その家の子どもを密かにかわいがる。やがて、一揆の罪でその家族が追われると、最後の秘術によって追っ手を倒し、自らも死ぬ。
その老忍者が死を覚悟して、子どもと別れるときの言葉。「よいか。大きくなってわしが見えなくなっても、わしはいつまでもついている。忘れるな」
いつ読んでも泣ける。