大井川通信

大井川あたりの事ども

『アメリカ現代思想の教室』 岡本裕一朗 2022

とても読みやすく、かつ良い本だった。図表をつかって議論を思い切って単純化しているが、浅薄な印象を受けない。それは、著者がまとめようとする議論が、現在の喫緊の問題とつながっていて、それが不透明な未来へと直結しているからだろう。つまり、アクチュアルなのだ。

若いころ、ポストモダン現代思想にかぶれていたために、80年代までのフランスやドイツの思想が最先端だと思い込んでいて、90年代以降の思想の動向には「思考停止」状態に陥っていた。

この本が紹介するようなアメリカ思想も、経済思想の動向くらいに受けとめていて、現実的な影響力がいかに大きくても、思想としては浅くて魅力を感じることはなかった。この本のシンプルな解説のおかげで、同時代のアメリカ思想が、どんなふうに現実と切り結び、解決を模索しているのかがわかった気がする。これは思っていたほど浅薄なものではなかった。

どん詰まりに思える現代の状況に対して、何をどう考えていくのか。ヒントと刺激をもらえた気がする。